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三章
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8.消えた羅針盤 銃声が何発も鳴り響いていた。 「ちょ・・・ネダー博士っ!やたらと発砲したら崩れちゃうわよ!」 「うるさいわい。そんなこととうにわかってるわっ!他に方法がない。」 たまたま、大佐の兵士のはぐれた者達三人と出会ってしまったのだ。 「ええい。やかましい!これでもくらえ!」 ライーザは、ネダー博士が手に持っている物を見てぎょっとした。 「わっ!やめて!それ、手榴弾じゃない!」 ドカーン・・・洞窟が揺れた。 「な、何だ。崩れだしたのか?」 アルザスは、フォーダートと同じように岩壁を通り抜けながら言った。大きな音がして近くの柱がぐしゃりとつぶれる。 「げっ!う、うそだろ!」 慌てて、走りだす。岩壁の向こうは廊下のようだった。走っていると、前方で激しい銃撃戦の音が聞こえた。「なんだ、なんだ?」 アルザスは困ってゴチャゴチャ言いながら、取りあえず様子を見る。その喧噪の中に聞き覚えのある声が聞こえた。 「もう!崩れだしたじゃない。」 「今、戦闘中だ。声をかけるな!おりゃあああ!」 聞こえた声でアルザスは、安心して飛び出した。 「おい、ライーザ!オレだ!こっちだよ。」 ライーザは振り返った。一瞬嬉しそうな顔はするのだが、相変わらず素っ気ない表情に戻るのもまた一瞬である。 「あ!アルザス・・・遅いわねっ!今大変なのよ!」 「遅いわね・・・って・・。オレは命がけで・・・。」 ズドーン・・・よこから銃弾が飛んでくる。 「うっとおしいっ!」 ネダー博士はリュックからまたしても手榴弾を取り出した。 「お・・・おいおい!やめろ!崩れちまうよ!」 (さっきのドカーンてのは、あんたかい!)とアルザスは思いながら博士を羽交い締めにする。そろそろまずいことになりそうだった。逆十字は十分経てば崩れ出すと言っていたがとっくにタイムリミットが来ているはずだ。 と、いきなり足下にひびが入った。敵の兵士が騒ぎ出す。 「うっわー!に、逃げよう!」 「逃げるったってどうすればいいのよっ!」 「あっちに道があんだろ!走って逃げるんだよっ!」 地鳴りが激しくなる。もう戦闘どころではなくなった。アルザスは近くの道にライーザと一緒に逃げ込んだ。博士が少し遅れて続く。天井が少しずつ崩れ落ちてきて、パラパラと土が頭に降りかかる。 少し走っていくと階段が見えた。 「あれをのぼるんだっ!」 階段はずっとのぼっていた。無我夢中でどこをどう走ったのか・・・三人とももう覚えていなかった。 「え?じゃあ、羅針盤はなかったの?」 「ああ。何だかお前は二番目だ・・。とか言われてよ。」 すっかり外は夕焼けだった。階段を無我夢中でのぼった先は、フィレア山のゼンツァードとは違う別の洞窟で三人はそこで休憩し、それから今までの報告を始めたのである。ゼンツァード洞窟がどうなっているのか彼らにはわからない。本当に崩れ落ちたのかどうか、確認している暇はなかった。 「しかし・・・、トレイックにそんなゲームがあったとはな。興味深い・・実に興味深い。」 ネダー博士が一人興奮してぶつぶつ言う。それを無視してライーザが言った。 「持ち出したのはあの人よ。たぶん・・・。」 「あの人?・・・って誰だ?」 「逆十字。」 ライーザは続けた。 「あの日記の筆跡は間違いなくあの人の字よ。ここに持ってるけど・・・ほら、あのメモの字とそっくりじゃない?」 ライーザは日記のページを大きく広げてアルザスに見せる。 「じゃあ・・・あの野郎は地図と羅針盤を手に入れてたんだろ?一瞬はどうしてそれを隠したりするんだ?」 「それがよくわからないのよ。」 ライーザはため息をつき、日記をぱたんと閉じた。 「よくわからんが・・・」 ネダー博士が言った。相変わらず仏頂面だが、そろそろ馴れてきた。 「お前達はつくづくトレイック文明に因縁があるようだな。研究ついでだ。これからも困ったことがあれば私の方に持ってくるといい。協力しよう。おかげで私も色々わかるしな。」 「あ、ありがとう!博士。」 アルザスは礼を言い、軽く頭を下げた。 「なあ・・・あいつ・・。」 帰り道、アルザスはふとライーザに訊いた。ライーザがこちらに顔を向ける。 「なあ・・・あの野郎はどうしてオレを殺さなかったのかなあ?」 アルザスの視線の先で、夕日のせいで黄金色に輝く雲が流れていく。ライーザも空を見た。 「わからないわ。でも・・・あの人、そんなに冷酷な人じゃないのよ。きっと。」 どこかで・・・そう、どこかで、この同じ空を逆十字も見ているはずだった。あの男はこの話を聞いてどう思うのだろう?アルザスはいつか本当の理由をフォーダート本人に訊きたく思った。 《第三章に続く》 戻る 三章 一覧 |
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